2012年12月28日

「知と愛 ナルチスとゴルトムント」は、ヘルマン・ヘッセ後期の
長編小説である。

ここでは、後期の作風のスタート地点となった名作「デミアン」の構造
をさらに拡大し、キリスト教の全寮制の神学校を舞台とした二人の
対照的な少年同士の友情と離反を描く物語を作り上げた。

この二人の対照的な性格は、ヘッセの作品の永久のテーマであり、それは
とりもなおさずヘッセ自身の心理の中に巣食うまったく別の二つの
側面なのだと僕には思える。

そして、明らかに放浪を好んだこの特殊な作家は、この作品でも、
芸術家として寮にこもって生きる人の人生よりも、明らかに旅に
生きた奔放な人物の方に文章量を割いている。

しかし、こうした行動が若さの特権であるという点にも言及していて、
結局人間は自分の故郷へ戻るべき存在なのだとも語っている。
posted by ヒロシッペサンタ at 20:35 | 人は冒険者のまま死ぬことはできないのか

2012年12月16日

「ルル・オン・ザ・ブリッジ」は、小説家のポール・オースターが
初監督した文芸作品である。

小説ではいつも魔法のような手際を見せてくれるオースターだが、映画
の世界ではそうはいかなかったようだ。

美術から脚本から、ほとんどが無難にまとまりすぎており、夢オチと
言われて怒りすら覚える。

もともと夢のような作風を得意とする人物だけに、そのようなありがち
な印象を観客に与えるような愚は冒さないと思っていたところが、
このとおりである。

もともとこの企画はヴィム・ヴェンダースが監督を担当する予定だった
というから、その場合というのも見てみかった気はする。

ここは映画のコンテクストなど全部忘れて独善的にいつものオースター
節を貫いたほうがよかったような気がする。
posted by ヒロシッペサンタ at 16:37 | 独裁者になりきれなかった作家は駄作を作る